アマゾンの村上春樹








2011年5月4日水曜日

風になれ!●オススメの感動小説●『一瞬の風になれ』(佐藤 多佳子)

これまた、僕にドンピシャの小説。

僕は中学生の頃、陸上競技の100mと三段跳び、400mリレーをやっていた。

この『一瞬の風になれ』は高校生の陸上への、そして人生へのひたむきさを見事を描いた作品になっている。


あさのあつこの『バッテリー』、森絵都の『DIVE!』と並び称される、極上の青春スポーツ小説。


主人公である新二の周りには、2人の天才がいる。

サッカー選手の兄・健一と、短距離走者の親友・連だ。

新二は兄への複雑な想いからサッカーを諦めるが、連の美しい走りに導かれ、スプリンターの道を歩むことになる。


夢は、ひとつ。

どこまでも速くなること。

信じ合える仲間、強力なライバル、気になる異性。

神奈川県の高校陸上部を舞台に、新二の新たな挑戦が始まった――。


この小説を読んでいると風を切るような音まで聞えてくる。


見事なのは、競技中の描写。

新二が走る100m、200m、400mなどを中心に、各競技のスピード感や躍動感が迫力を持って伝わってくる。

特に、本書の山場とも言える4継(4人がバトンをつないで合計400mを走るリレー)では、手に汗握る大熱戦が展開される。

丁寧な人物描写も、物語に温かみを与えている。

生き生きと描かれる登場人物たち、彼らが胸に抱えるまっすぐな想い。

その1つひとつが、小説全体に流れる爽やかさを生み出し、読み手の心を強く揺さぶるのだ。


何かに、ひたむきに打ち込むこと。

風のように疾走する新二や連を追ううちに、読者は、重たい現実を一瞬だけ忘れ、彼らと同じ風になることができるのだ。


全部読むと数百ページになる長いお話である。

しかし書いてあることを要約すれば 「高校生の男が走る」という、ただそれだけだ。

セックス・シーンは皆無。暴力もふるわれない。

人が死ぬ場面もない。

主人公や恋人が 突然白血病になったりしない。

通俗的なドラマで話を盛り上げるために導入される要素が ほとんどない。

それでいて読後には読む前とは異なる世界が眼前に拡がる。

もしかしたらこの世の中はすごく魅惑的なものかも。

そう感じて生き返った気がする。


ただ走る話である。

走るというシンプルなことからも、希望や真実は伝わる。


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2011年5月3日火曜日

最近、生活がすさんでいませんか?●お勧めの青春群像小説●『風が強く吹いている』(三浦 しをん)

2001年の正月、酩酊しつつテレビを見ていた三浦しをんの脳内に天啓のような閃きが駆け抜けた。

「箱根駅伝いいっす。これは小説になる!」

以来、駅伝経験者を訪ね、H大とD大に取材を申し込み、早朝の練習や高原の夏合宿に随行、記録会や予選会を見学、そして、もちろん正月は「箱根」へ、と徹底取材を敢行。

構想・執筆6年、ここに本邦初の王道「青春小説」が誕生した。

箱根駅伝をめざす若者たちを通して、自分と向き合い、ひとり孤独に戦いながらも、確実に誰かとつながってゆく 生きるための真の「強さ」を高らかに謳いあげた青春小説。



寛政大学4年の清瀬灰二は肌寒い三月、類まれな「走り」で夜道を駆け抜けていく蔵原走に出くわし、下宿の竹青荘に半ば強引に住まわせる。

清瀬には「夢と野望」があった。

もう一度、走りたい、駅伝の最高峰、箱根駅伝に出て、自分の追求する走りを見せたい。

その「夢と野望」を「現実」にするにはあと一年しかない。

そしていま強力な牽引者が彼の目の前に現れたのだ。


竹青荘は特異な才能に恵まれた男子学生の巣窟だった。

清瀬は彼らを脅しすかし、奮い立たせ、「箱根」に挑む。

たった十人で。蔵原の屈折や過去、住人の身体能力と精神力の限界など、壁と障害が立ちはだかるなか、果たして彼らは「あの山」の頂きにたどりつけるのか。


お正月に「箱根駅伝」を観る人も、観ない人も楽しめる「人間の成長」の物語。

ただ、この『風が強く吹いている』を読むと、「箱根駅伝」が3倍は楽しめる。


読み終わった時には、自分もまるで「箱根駅伝」を走り抜けたような爽快感がある。

僕は自分も中学校時代は「短距離」をやり、働き始めてからは「駅伝」と「フルマラソン」を走っているので、ここに登場する若きランナー達の心理描写がたまらなく良かった。

でも、じゃ、走ったことが無い人は、この本がつまらないかというと、とんでもない!

「なるほど、こんなことを考えて走っているのね。」と思えるし、「何故、苦しいのに走るのか?」という疑問にも答えてくれる。


とにかく、素人集団が天下の「箱根駅伝」を目指すという設定なので、多少、無理があるが、その無理さが、またたまらなくいい。

「駅伝」という孤独でありながら、チーム仲間意識を強烈に感じさせる競技だからこそ、実際の駅伝でもドラマが生まれるし、フィクションにおいても読む人に感動を与えてくれる。

これは「駅伝」というスポーツを通して人間がどん底から成長していき、チームの中に愛しいほどの戦友が生まれるまでを描いた、天下一品の青春群像ドラマになっている。


読者もまた、『風が強く吹いている』を通して成長するのだ。

最近、生活や思考がすさんでいるな、と思っている人には特にお勧めします。



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2011年5月2日月曜日

人生が熱くなるお勧めの本●『ボックス!』(百田 尚樹)

高校ボクシング部を舞台に、天才的ボクシングセンスの鏑矢、進学コースの秀才・木樽という二人の少年を軸に交錯する友情、闘い、挫折、そして栄光。

二人を見守る英語教師・耀子、立ちはだかるライバルたち......。

様々な経験を経て二人が掴み取ったものは!?

『永遠の0』で全国の読者を感涙の渦に巻き込んだ百田尚樹が、移ろいやすい少年たちの心の成長を感動的に描き出す傑作青春小説!

ボクシング小説の最高傑作がいま誕生した!


王様のブランチ「マッチョイ」で推薦されていたこの本。

導入がいい。厚めの本は、導入の数ページで挫折したくなるものが多いが、導入の2ページで既に吸い込まれる。

放送作家という、飽きっぽい観客を対象にしたTV映像の世界で生きてきた作者ならではなのか。

この本の読者の真の対象はいわゆる「青春まっさなか」世代ではないような気がする。

いくつもの挫折を繰り返し、才や努力の狭間の中で、負けることへの恐怖心が生存本能で染み付き、動けなくなった大人たちへの示唆が溢れているからだ。

中心となる高校生達を、多くの大人たちがそれぞれ過ごしてきた人生と価値観を元に囲み、 それぞれの思いで、彼らに対して行く。


「努力は才を超えるか?」「才とは何か?」「情熱の源泉は?」そうした、様々な問いに対しての様々な答えをストーリーの中で見せていくこの本。

リミットを超える瞬間を求め、情熱を取り戻す喜びを、是非体感して欲しい。



熱い話である、胸すく話である、それでいて胸が締めつけられる話でもある。

とにかく、グッとくる事請負の小説。

ボクシングに天賦の才能を見出された無軌道な鏑矢と、彼を見守り、彼のように強くなりたいと願う聡明な優紀、これは、全くタイプの違う2人の高校生の友情とボクシングのドラマ。

物語は、優紀と、高校のボクシング部顧問の耀子の視点で終始展開する。

ふたりと、共通の“大きな存在”鏑矢、誰に感情移入しても面白く読めるが、個人的には優紀の“物語”により共感を持って読んだ。


彼女の前での理不尽な暴力に無抵抗のまま屈した思い、ボクシングが上達し心弾む喜び、思慕する耀子の鏑矢への目線を悟った時によぎる微妙な感情、何よりボクシングを通して人間的に強く大きくなっていくという、これは10代の男性の青春成長小説である。



ボクシングは相手の運動能力を破壊する目的で人体の急所ばかりを狙って殴る格闘技。

本編中に語られる定義は、このスポーツの本質を明確に言い表している。

これはまた、本格的なボクシング小説。

ルール、トレーニング、テクニック、戦術、闘争本能、そして精神世界と、ここまで細部に渡って描写された小説を知らない。

鏑矢を始め、ボクシング部員たちも、優紀、友野ら優等生たちも、皆嫌味なく清々しく書き込まれていて、いまどきこんな純粋な若者たちばかりなのかとも思うが、やはり好感が持てる。

ずば抜けて才能がある者と、絶え間ない努力でその位置に上ろうとする者。

“努力”、“天才”、“才能”、“一流”の本質について見事に言い得ているのも魅力的だ。

息つく間もない580頁、筆者は「探偵ナイトスクープ」等で知られる放送作家だそうだが、このドラマツルギー、ダイナミックな筆力は、只事ではない。

若い人はもちろん、かって若者だった人や女性にも是非お薦めの1冊と言っておきたい。


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いろんな意味で重たいがお勧めの本●『決壊』(平野 啓一郎)

2002年10月全国で犯行声明付きのバラバラ遺体が発見された。

容疑者として疑われたのは、被害者の兄でエリート公務員の沢野崇だったが……。

〈悪魔〉とは誰か?

〈離脱者〉とは何か?

止まらぬ殺人の連鎖。明かされる真相。

そして東京を襲ったテロの嵐!“決して赦されない罪”を通じて現代人の孤独な生を見つめる感動の大作。


凄い。
 
ドストエフスキー没して百年余。


この小説の凄さは、ドストエフスキー的な対話を軸に、ネットやメディアに溢れる言説を本物そっくりに活写し、かつ登場人物ひとりひとりの血を、体温を、リアルに濃密に伝えてくることだ。
 
残虐な連続殺人に対して、メディアの新情報を今か今かと待ち、残虐な事実を知るたびに、やり場のない怒りを紋切型の喋りでしか表現できないもどかしさに腹立つ、という状況は、まるで現実そのもので、犯人の少年や家族の言葉は雑誌やテレビというメディアを通して、実在の事件そのものだ。

そこに生身の少年がリアルに描かれることで、コメンテーターや教育者の正義の言説の空疎さが浮き彫りになってしまう。

 
殊に沢野一家の悲劇は、前半のリアルな一家団欒の描写を経て、痛ましく胸に迫り、はからずも平成のスタヴローギンとなってしまう沢野崇の造形は真に魅力的だ。
 

想像や未来の予知などと言うよりは、明らかに現状を写実したものに近い。

本作で語られることは極めて切実で我々の身に、いや心に迫ってくるが、「なぜ人を殺してはいけないか」という問いを初めとして、どれもこれも殆どがどこかで聞いた事ある事ばかりである。

小難しい言葉で飾られた思想のごときものも実質は同じであり、結局のところそれは今の時代の状況、現代人の抱える思いや言葉を代弁し語り、時代精神をそのまま描いただけなのである。

本作のそういう時代精神・時代状況の写実は専ら殺人事件や犯罪をめぐる諸問題や諸言説を対象としている。

責任能力や精神病の問題から警察の取調べの問題まで現代日本で騒がれる犯罪関係、法律関係のあらゆる問題が本作内には凝縮され扱われていると言えよう。

それは私としては高く評価できる極めて意義ある事に思えた。


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自分の感受性くらい自分で磨け●茨木のり子詩集『おんなのことば』

ポケットに入る詩集なのに、その中身には人生が凝縮されている。

決して難しい言葉や表現を使ってないのに、何故か、新鮮な言葉。

決して世間に媚びず、前向きに人生を凝視している。

背筋を伸ばして凛としている言葉たち。


冒頭の「自分の感受性くらい」を読むと、頭をガーンと叩かれた感じになる。



『自分の感受性くらい』茨木のり子

ぱさぱさに乾いてゆく心を
ひとのせいにはするな
みずから水やりを怠っておいて


気難しくなってきたのを
友人のせいにはするな
しなやかさを失ったのはどちらなのか


苛立つのを
近親のせいにはするな
なにもかも下手だったのはわたくし


初心消えかかるのを
暮らしのせいにはするな
そもそもが ひよわな志にすぎなかった


駄目なことの一切を
時代のせいにはするな
わずかに光る尊厳の放棄


自分の感受性くらい
自分で守れ
ばかものよ





人間の醜さを認めながらも、人間を愛している詩人の茨木のり子。


無駄口ばかり叩いている僕だけど、この詩集を読む返すたびに自分が恥ずかしくなる。

本当のことを語るのに、そんなに多くの言葉はいらないんだよ、と教えてくれる。

どの詩を読んでも魂が洗われていく。



いい詩は「飛躍」がある。

いい詩は世界を「別の視点」で見せてくれる。


僕は惰性に流され生きているなと、気が付いたら、必ず、この詩集を開く。

この詩集『おんなのことば』は時には僕を叱ってくれ、時にはより多く、励ましてくれる。


全然、関係ないのだが、茨木のり子さんは僕と同じ薬学出身なので、それだけでも嬉しくなってしまう(もう、故人になられている)。



茨木のり子さんが詩の楽しみ方や感じ方を書いた『詩のこころを読む』(岩波ジュニア新書、1979年)は小中学生用に書かれたものだが、大人でも十分に考えさせてくれる本になっており、なるほど、詩はこういう味わい方をするのね、と教えくれる。

この『詩のこころを読む』と、今まで読んでいた詩も別の味わい方を感じさせてくれる。


砂漠の中のオアシスのような詩集『おんなのことば』は、「詩はちょっと・・・」と照れているあなたにもお勧めのできる詩集です。


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2011年5月1日日曜日

怖くても徹夜するほど面白い小説●ホラーの金字塔●リング、らせん、ループ、バースディ(鈴木光司)

ゴールデンウイークはこれで決まりだ!!


同日の同時刻に苦悶と驚愕の表情を残して死亡した四人の少年少女。

雑誌記者の浅川は姪の死に不審を抱き調査を始めた。

―そしていま、浅川は一本のビデオテープを手にしている。

少年たちは、これを見た一週間後に死亡している。

浅川は、震える手でビデオをデッキに送り込む。

期待と恐怖に顔を歪めながら。画面に光が入る。

静かにビデオが始まった…。

恐怖とともに、未知なる世界へと導くホラー小説の金字塔。



今さらなのだが、「リング」である。

まだ読んでない方は是非、今すぐに読んで欲しい。


一本のビデオテープを観た四人の少年少女が、同日同時刻に死亡した。

この忌まわしいビデオの中には、一体どんなメッセージが…!? 

恐怖とともに、未知なる世界へと導くオカルト・ホラー。


「リング」を読んだら続編の「らせん」、「ループ」、「バースデイ」の順に全作品を読まれることを強くお勧めします。



「リング」⇒「らせん」⇒「ループ」⇒「バースデイ」



少年少女たちが、なぜ死んだのかという謎解きよりは、1週間という限られた時間の中で、生き延びるための手段を見つけ出さなければならないという緊迫感が読者に言い知れぬ緊張を与える。

これだけでは単なるホラー小説として片付けられたかもしれない。

しかし、本当の恐怖は物語の終盤に差し掛かるにつれて、増大していく。

どこまでも限りなく続く、逃れられない恐怖を描いたホラー小説である。

四人の少年少女たちの謎の突然死に始まるこの作品で鈴木光司が見せてくれたのは、従来のオーソドックスなホラー小説にありがちな単なる戦慄・不安・緊張感・嫌悪といった感情だけではなく、斬新な概念の恐怖と、彼自身の才能の眩い輝きだ。


ホラー好きでなくとも絶対対楽しめますよ。


「ループ」や「バースデイ」の構想が有ったうえでの「リング」だったのだろうか?

もし、そうだとしたら鈴木光司は天才だ。


何はともあれ、今すぐに購入して、即、徹夜しよう。

これを読まずに死ねないね。



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2011年4月30日土曜日

おすすめの本・小説●“泣ける”感動作●八日目の蝉(角田 光代)

逃げて、逃げて、逃げのびたら、私はあなたの母になれるだろうか…。

東京から名古屋へ、女たちにかくまわれながら、小豆島へ。

偽りの母子の先が見えない逃亡生活、そしてその後のふたりに光はきざすのか。

心ゆさぶるラストまで息もつがせぬ傑作長編。

第二回中央公論文芸賞受賞作。


もとは’05年11月から’06年7月まで「読売新聞」夕刊に連載された、直木賞作家・角田光代の“泣ける”感動作。

’06年に創設された「中央公論文芸賞」の’07年第2回の受賞作。


檀れい、北乃きい出演によりNHKでドラマ化され、’10年4・5月に放映された。

そのDVDも発売されている。

また’11年4月には永作博美、井上真央出演で映画化、29日からGW全国ロードショーもされる。


不倫相手の乳幼児を誘拐し、3年半も逃亡生活を続けた野々宮希和子。

彼女により薫と呼ばれて暮らし、希和子逮捕と共に本当の親元へ帰され、今は大学生となった秋山恵理菜。

しかし恵理菜もまた妻子ある男の子供を身ごもる。

希和子と薫の逃亡生活を三人称で1章、2章では一人称で主に恵理菜のことを描きながらも希和子事件の実際のあらましにも触れている。

この小説からは、このふたりの“母性愛の強さ”を感じないではいられなかった。

世間一般には「犯罪」として、また「愚かな女」として「間違ったこと」をしたシチュエーションだろうけれども、すべてを捨ててもただひとつの大切なものを守りたいという思いが行間から切々とうかがわれるからである。



新聞連載小説でありながらこれほど魂が揺さぶられる物語を読んだのは、吉田修一の『悪人』以来であった。

とりわけ、ラスト数ページの希和子の描写が、ここまで読んできた者のこころをしっかりと捉えており、言葉ではいえないほどの余韻を残している。


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