僕たちの終章はピンボールで始まった
雨の匂い、古いスタン・ゲッツ、そしてピンボール……。
青春の彷徨は、いま、終わりの時を迎える。
さようなら、3(スリー)フリッパーのスペースシップ。
さようなら、ジェイズ・バー。
双子の姉妹との<僕>の日々。
女の温もりに沈む<鼠>の渇き。
やがて来る1つの季節の終り。
デビュー作『風の歌を聴け』で爽やかに80年代の文学を拓いた旗手が、ほろ苦い青春を描く3部作のうち、大いなる予感に満ちた第2弾。
デビュー作「風の歌をきけ」と 大作「羊をめぐる冒険」の合間の作品で わりと地味という評価が多い。
話としては双子の登場、ピンボールを巡る 幾分シュールな展開もあり その後の村上春樹の世界を 強く予感させる作品だ。
いくつかの挿話は 結局答えが出てこないまま終わっていく。
その辺のもどかしさも 既に村上らしい仕立てになっている。
但し叙情性に満ちている。
特に 冒頭の井戸掘りの話からはじまり 最後は11月の雨で終わる本作は いたるところに水のイメージに満ち溢れている。
その鮮烈さも捨てがたい魅力だ。
そして これが重要だと思うが 前期村上春樹の一大命題である「直子」という女性が 本作には登場している。
その悲劇性は既に ノルウェイの森の「直子」を予告するものになっている。
三部作の真中は 何でも難しいわけだが 個人的には 極めて好きな作品だ。
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