著者初の短篇集。
村上春樹、初期の珠玉の短編集。特に「最後の午後の芝生」は青春の一場面を、断面的にさっと切りとったような爽快さともの悲しさが感じられる、彼ならではの傑作ではないかと思います。
感情を抑制しつつ、押さえられているが故により印象的な情感を簡潔にクロスさせながら物語は進行していきます。
実際に読んだのは、もう二十年近く前ですが、(なんと毎年)夏がくると読みたくなり、そのたびに読み返しています。
本来的に彼の(少なくともこの頃は)文章に向かう能力というものは、歯切れの良い短編向きだったのではないか、という感を強く持つ代表作。
村上春樹、初期の短編集です。
短編集はこの他にも幾つか出ていますし、僕も幾つか読みましたが、僕はこの短編集が一番気に入っています。
決して稚拙ではないけれど、どこか危うくバランスを崩しそうな、積み木のような作品たちが詰まっています。
僕は「シドニーのグリーン・ストリート」がお気に入りです。
2000年以降の作品しか読んだことがない方には、是非手に取ってほしい一冊です。
著者の第一短篇集。七つの短篇が入っています。初出掲載は、次のとおり。
『中国行きのスロウ・ボート』——「海」1980年(昭和55年)4月
『貧乏な叔母さんの話』——「新潮」1980年12月
『ニューヨーク炭鉱の悲劇』——「ブルータス」1981年3月
『カンガルー通信』——「新潮」1981年10月
『午後の最後の芝生』——「宝島」1982年8月
『土の中の彼女の小さな犬』——「すばる」1982年11月
『シドニーのグリーン・ストリート』——「海」臨時増刊「子どもの宇宙」1982年12月
なかでは、随分久しぶりに再読した『午後の最後の芝生』が、やっぱり素敵だった。
この作品のみずみずしい香り、主人公の十八か十九歳の夏の思い出の風景は、本当に魅力的で、ただ好きだ、としか言えない。
主人公の青春の気分が、透明な清々しさをたたえたタッチで、実に品よく描かれているから。
格別、次の二箇所の文章に惹かれた。
≪空には古い思いでのように白い雲が浮かんでいた。≫
≪日の光が僕のまわりに溢れ、風に緑の匂いがした。蜂が何匹か眠そうな羽音を立てながら垣根の上を飛びまわっていた。≫
それと、『シドニーのグリーン・ストリート』に挟まれた三枚の挿絵(飯野和好)が、いいね。
私立探偵の「僕」、ウェイトレスの「ちゃーりー」、ぶっきらぼうで乱暴な「羊博士」の三枚の挿絵。
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