奇妙で複雑なダンス・ステップを踏みながら「僕」はその暗く危険な運命の迷路をすり抜けていく。
70年代の魂の遍歴を辿った著者が80年代を舞台に、新たな価値を求めて闇と光の交錯を鮮やかに描きあげた話題作。
本作品の本当の主人公は「いるかホテル」なんじゃないだろか?
そこで繰り広げられる「生」と「死」の物語。
村上春樹にしては珍しくミステリーっぽいこの作品。
『羊をめぐる冒険』もなかなかスピード感があったが、今作はそのミステリー感の影響でさらにスピード感のある作品となっている。
あんまり書くとネタバレになるので書かないが、今作のテーマは『死』と言っても良いと思う。
ある場面で主人公はこんなことをユキと言う不思議な少女に語りかける。
「人の生命というのは君が考えているよりずっと脆いものなんだ。だから人は悔いの残らないように人と接するべきなんだ。公平に、できることなら誠実に。そういう努力をしないで、人が死んで簡単に泣いて後悔したりするような人間を僕は好まない。個人的に。」
良い台詞だ。
80年代後半に書かれたとは思えないくらい新しい。
一読の価値アリ。
本書は評価としては分かれているようだ。
むしろ 元々の村上ファンからは 幾分かマイナス評価を得ている趣もある。
確かに 話がきちんと完結しておらず 答えを出さないというスタイルが本書あたりから 村上には出てきたような気がする。
その点で 読んでいてもどかしさがある。
但し 初期三部作、特に 始めの二作に見られた村上のスタイリッシュな軽さの中に おりのようによどんでいたものが はっきりと主張され始めたという点では貴重な一作だと僕は考えている。ストーリーテリングの冴えも申し分ないと思うからだ。
「踊るんだ。
音楽の鳴っている間は踊り続けるんだ。
なぜ踊るなんて考えちゃいけない。
意味なんてもともとないんだ。
どれだけ馬鹿馬鹿しく思えても、
きちんとステップを踏んで踊り続けるんだよ。
まだ手遅れになっていないものもあるはずだ。
使えるものは全部使うんだよ。
ベストを尽くすんだ。
とびっきりうまく踊るんだ。
みんなが感心するくらいに。」
「繋がっている。
僕としては、この線をだどってみるしかない。
この糸を切れないように注意深く辿っていくんだ。
とにかく動くこと。
立ち止まらないこと。
こっちの世界に居続けるんだ。」
★念のために本作品のシリーズを順番に書いておくと。
「風の歌を聴け」→「1973年のピンボール」→「羊をめぐる冒険」→「ダンス・ダンス・ダンス」
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